2010年7月19日月曜日

Quality of Death

共同が変な訳をしたおかげで、某医師専門掲示板で変に炎上してしまったイギリス初の調査結果(http://www.eiuresources.com/mediadir/default.asp?PR=2010071401)をAFPから抜粋したいと思います


死に場所なら英国が一番、英調査
2010年07月15日 18:00 発信地:ロンドン/英国

【7月15日 AFP】死を迎えるのに最適な国は英国――英誌「エコノミスト(Economist)」の調査部門「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(Economist Intelligence Unit、EIU)」が14日、このような調査結果を発表した。
 EIUは、経済協力開発機構(OECD)加盟30か国とその他10か国の医師・専門家などを対象に、終末期医療に対する国民意識、トレーニングの有無、鎮痛剤の使用状況、医者・患者間のコミュニケーションの透明性などを基準とし、「クオリティー・オブ・デス(QOD、死の質)」を評価した。
 英国は、政府による終末期医療サポートや、ホスピス間のネットワークが充実している点が評価され、40か国中トップに立った。2位にはオーストラリア、3位にはニュージーランドがランクイン。アイルランド、ドイツ、米国、カナダもトップ10入りした。
 デンマーク22位、フィンランド28位など、富裕国とされる国の複数がランキング下位20位と低評価を受けたほか、ワースト10にはポルトガル、韓国、ロシアが入った。最下位はインドだった。

■富裕国での終末期医療整備が急務
 EIUは、「最先端の医療システムを有する富裕国」でも医療制度に終末期医療を組み込んでいない国が多いと指摘。人の寿命が延び、高齢者が増え続けるなか、こうした国々で終末期医療の需要が急激に高まるとの見通しを示した。
 また、緩和医療は病院だけで行われるべきものではないこと、自宅での死を選ぶ人が多いことを挙げ、自宅介護士の育成を強化するよう薦めている。(c)AFP/Charlotte Turner


この調査結果の日本における分析については、シンガポール版の分析が参考になります。


「死の質」ランキング低いアジア諸国、日本は40か国中23位
2010年07月16日 08:44 発信地:シンガポール

【7月16日 AFP】アジアでは全般的に生活水準が向上しているにもかかわらず、死を迎える人に対し、適切なケアが提供されていないと指摘する報告が14日発表された。
 英誌「エコノミスト(Economist)」の調査部門、エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(Economist Intelligence Unit、EIU)によると、世界的に高齢化が進む中、終末期ケアや終末期医療の充実は、各国政府や機関などに求められる急務となっている。
 しかし、シンガポールの慈善団体リーエン・ファンデーション(Lien Foundation)の調査に基づき、死を迎える人に施されるケアの質を評価した「クオリティー・オブ・デス(QOD、死の質)」インデックスで、アジア各国の順位は低い。

■死の質1位は英国、日本は23位
 比較された40か国中の最下位はインド。下位10位には中国、マレーシア、韓国が並んでいる。経済大国の日本も、台湾14位、シンガポール18位にも劣る23位にしかランクインできていない。
 一方、トップは「ゆりかごから墓場まで」の英国。2位以下はオーストラリア、ニュージーランド、アイルランド、ベルギー、オーストリア、オランダ、ドイツ、カナダ、米国と続く。
 報告書は「クオリティ・オブ・ライフという言葉は広まったが、クオリティ・オブ・デスは別問題。医療政策に緩和ケアを組み込んでいる国は、最先端の医療システムを要する富裕国を含めてほとんどない」と批判している。また「緩和ケアおよび終末ケアに特化した施設」が国の医療制度の一部になっていない点や、ドラッグの違法取引や医療従事者への訓練不足が足かせとなって、世界的に鎮痛剤が適切に行き届いていない点が指摘された。
 さらに文化的側面として、死に対する認識やタブーが、緩和ケアの障害になっている点も挙げられた。

■緩和ケア必要な患者は年1億人、受けているのはわずか8%
 世界で65歳以上人口は2030年までに8人に1人、合計で10億人に達する。毎年、緩和ケアを必要とする患者は1億人を超えるが、実際にそうしたサポートを受けることができているのはそのうち8%に満たないというデータも報告では引用している。
 医療の発達とともに先進国ほど寿命は延びたものの、少子化と相まって高齢化も進み、また疾患を抱えて長生きするという新たな難題に終末ケアの現場は直面している。(c)AFP/Martin Abbugao


一言で言って、これでもかっていうほど全く反論できませんね
死に対する認識やタブーってってのは、日本だと病院の方にも重大な問題があるように感じます 
 
医療崩壊が叫ばれてからQOLという単語すら死語になりつつある日本の医療現場ですが、QODにいたっては言うまでもありません。
まぁ、死を生と対立するものととらえるか、生の最終段階ととるかは議論の余地がありますが、
そもそも、そんな「死にゆく人をどうするか」という概念が認知されてない現状では、この調査に何言っても反論にはなってません。

とはいえ、この原因については、日本に関しては歴史的な影響ってあると思うんですよね…
欧米では医療もキリスト教の影響下にあったわけですし、ホスピスなんてのはもろに教会の仕事だったわけです。
そんなわけで、治療期と終末期の壁って言うのはほとんどないと思われます。
また、国民の方もDeath Educationが日本よりはるかにできてますから、心理的抵抗が少ないのでしょう。

ところが、日本では治療期と終末期は隔絶しています。
患者が死亡する確率の高い高度医療機関においてすら、スタッフに終末期や「その後」のグリーフケアについてまともな知識がありません。
本来であれば、終末期専門のコメディカルなどが常駐しているのが望ましいのでしょうが、
在宅にするにしても、比較的健康な人の介護すらまともに回っていない状況で、終末期など夢のまた夢です

超高齢化社会の日本では、あと10~20年もすればまずは地方で、さらに10年ほどして次はベッドタウンで、間違いなく死のラッシュが始まります
その時まで、医療機関はノーガード戦法をとり続けるつもりでしょうか?
恐らくは、5年以内に動かないと、手遅れになり現場は混乱すると思われます

まぁ変な話、慢性疾患については、これから激増するターミナル患者と共に医療者が学んでいくって言うのはある程度期待できると思いますので、それなりにどうにかなるかも知れません
でも、そんな悠長なことを言ってられない現場があります
それは、脳死です

とうとう、改正臓器移植法が施行されました
もう、家族の同意だけで脳死が人の死となります


臓器提供というとレシピエントのQOLばかりが注目されますが、
私たちが本当に向き合わなければいけないのは、ドナーのQODと、その家族のこれからのQOLではないのでしょうか?


小児においては、医療機関が対応不能とはっきり言うところも出てきています
一方、成人の方はそういう話は聞きませんが、全ての施設が改正臓器移植法に対応できているなどとはとうてい思えません
だというのに、国の方はもうヤリ逃げ状態です


脳死移植32例の検証宙に浮く 国の検討会“休眠状態”

 脳死移植が適正に行われたかどうかを調べる厚生労働省の「検証会議」(座長・藤原研司横浜労災病院名誉院長)が昨年3月から1年以上開かれておらず、2007年5月以降に国内で実施された計32例の検証作業が宙に浮いていることが17日、分かった。このうち2例は臓器提供日から3年以上放置されている。
 厚労省の臓器移植対策室は「改正臓器移植法施行に伴う準備で忙しいため」と説明、当面は開催する予定もないとしている。会議の委員からは早期再開を求める声が上がっており、移植医療に詳しい生命倫理学者は「脳死移植をめぐる手続きの透明性が損なわれている」と指摘している。
 臓器提供の大幅増を目指す改正移植法が17日に全面施行され、15歳未満の子どもからの臓器提供も可能となったが、移植医療の信頼確保に向けた国の姿勢があらためて問われそうだ。
 厚労省によると、国内でこれまでに法的脳死と判定されたのは87例(うち1例は臓器提供に至らず)で、55例目まではすでに検証が行われた。このうち金沢大病院(金沢市)で行われた46例目の検証では、同病院が脳死判定時の脳波検査の記録を紛失したことが明らかになった。
2010/07/18 02:04 【共同通信】


医療現場の対応能力を無視した法改正のツケは、必ず出てきます
遠からず、脳死判定から逃散する施設も出てくるかも知れません

国や病院がアテにできないなら、医療者は自分で自分の身を守るしかありません
患者もいつか必ず死ぬ。そういう前提に立った上で自分とスタッフと患者を守る手段を模索する時代が、もう来ていると思います
その上で、現場から問題を発信する必要があるかと思われます

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